何に書けばいいのか?と不安に思っている人もいるかもしれませんが、法律上は紙に書かなければダメ、といった規定はありません。
負傷した男が自分の体に血で書いた、といった事例すらあります。
しかし、ここは普通に紙に書くのがいいでしょう。
書く物は鉛筆でもサインペンでもボールペンでも何でもいいのですが、鉛筆では後から消されたり疑われる危険性があるので、あまりお勧めできません。
そして全部を自筆します(相続法改正により、財産目録は手書きでなくてもよくなりました)。
『自筆』とは手書きのことなのでタイプ・ワープロ・コピーなどではダメです。
字は、英語でも中国語でもいいのですが、やはり日本語で書きましょう。
自筆で内容を書いた後は、自筆で日付を書きます。
平成○年○月吉日はダメです。
この日付はとても重要で、それは仮に2つの遺言書があったら後の日付の遺言が有効になるからです。
日付にはその遺言ができあがった日を書きます。
最後は署名と押印をします。
署名はもちろん自筆です。
これもローマ字などではなく、普通に日本語で書きましょう。
署名は『甲野 太郎』のようにフルネームで書きます。
印は、特に決まりはないので認印でも三文判でもかまいませんが実印がベストです。
印は氏名の下に押せばよく、氏名と押印は末尾でなくても、冒頭でもかまいません。
これで、自筆証書遺言は完成ですが封筒に入れたいのが人情です。
この場合は封筒に『遺言書』と書くことをオススメします。
その方が捨てられる危険性がないからです。
封筒に入れた場合でも封をする必要はないのですが、別にしてもかまいません。
しかし封印をした遺言書の開封は家庭裁判所で相続人または立会人のもとでしなければいけないので、相続人の立場になって考えてみれば、封をしないほうが親切といえるでしょう。
※相続法改正により、自筆証書遺言の保管制度が創設されます。制度を利用する場合は、封をしないで法務局に持参します。また、家庭裁判所による検認は不要となります。(相続法改正。施行日:2020年7月10日)。
自筆証書遺言は、別に1枚の紙に書かなければいけないということはないので2枚以上になってもかまいません。
このときに『割印』をしなければいけないのか、という問題がありますが、法律上は別に割印を要求していないので、いらないということになります。
しかし、一般的な契約書などでも割印を押すのが通常ですので、押しておいた方がいいでしょう。
法律上は要求されていなくても、あとから文句が出ないためにも押しておきましょう。
訂正・変更の仕方は、とてもややこしいです。
できる限り間違えたら作り直すことをお勧めしますが、一応訂正の仕方は以下のとおりです。
訂正・変更の仕方( 遺言者の自筆) |
遺言書にその場所を指示し |
↓ |
その部分について変更した旨を付記し |
↓ |
その付記について署名をし |
↓ |
実際の変更をその部分に加え |
↓ |
さらに変更の場所に印を押す |
この方法を踏まないと、せっかく変更しても無効になり変更前の遺言が通用してしまいます。
公正証書遺言であるからといって、自筆証書遺言より効力が強いといったことはありませんが、やはり公証人が作ってくれるので公文書にもなりますし、なにより安心・確実です。
当事務所でも、自筆証書遺言よりもこちらをオススメしています。
公正証書遺言は、以下の5つの手続を経て完成します。
(1) | 証人2人以上の立会い |
---|---|
(2) | 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口述する |
(3) | 公証人がその口授を筆記し、遺言者と証人に読み聞かせる |
(4) | 遺言者と証人が、筆記の正確なことを承認した後署名し印を押す |
(5) | 公証人が、右の4つの方式に従ったものであることを付記して、署名し、印を押す |
まず、第一日目は遺言者本人が公証役場まで依頼に行きます。その際に遺産のリスト・不動産の地番などの資料も持っていきます。遺言の内容もこの段階で公証人に伝えておきます。あとは証人2人の住民票を持っていくだけでいいのです。
この日に証人を連れて行く必要はありませんので、遺言者一人で行ってかまいません。
実務では、公証人はこの段階で公正証書の下書きだけでなく本物も用意してしまい、署名の日にはこれを利用して形式だけを踏むということが多いのです。だから、第一日目の段階で全部が用意されていなければいけないのです。
そして、公証人に指定された第ニ日目は遺言者本人と証人2人が公証役場に行きます。
そこで、上記の1~4の手続をして5の公証人の付記、署名、印で完成です。できあがった原本は公証役場に保管され正本1通が遺言者に渡されます。必要であれば謄本を必要な通数分渡してくれます。
ちょっと見た感じでは、なんか手続が面倒くさそうですが、そんなことはありません。
遺言者がすることといえば遺言の趣旨を公証人に口述することだけです。
つまり、公証人に遺言の『趣旨』だけを口で言えばいいのです。
この他に遺言者は署名する必要がありますが、これは最悪できなくても公証人がその事由を付記してくれるので、遺言者が最低限することは口で言うことだけです。
基本的には遺言者と証人2人以上は公証人役場まで行かなければいけませんが病人で歩けないような人のために、公証人は病人の枕元まで出張してくれます。
あとは公証人の指示通りにしていれば、遺言ができあがります。
遺言の中身を人に知られたくない、というのなら『秘密証書遺言』が最適です。保管も確実で、秘密も保たれます。以下の4つの決まりを経て完成します。
(1) | 遺言者がその証書に署名し印を押します。 この場合、署名以外は自筆でなくてもかまいません。 他人に書いてもらったものやワープロでもよいのです。 |
---|---|
(2) | 遺言者がその証書を封じ、証書に用いた印章でもって、これに封印をします。封筒で封じるのが普通ですが、証書自体を張り合わせて封じてもかまいません。 |
(3) | 遺言者が公証人1人および証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨と、その筆者の氏名、住所を述べる。 筆者というのは、自筆でないことがあるので、後日のために誰が書いたものかを明らかにするためです。 |
(4) | 公証人がその証書を提出した日付と、③で遺言者が述べたことを封紙に記載した後遺言者・証人とともにこれに署名し印を押します。 |
秘密証書遺言として作成したものに上記4つの方式が欠けていた場合、秘密証書遺言としては無効になってしまいますが自筆証書遺言の要件を備えていれば自筆証書遺言として有効になります。
だから、なるべく全文を自筆(財産目録は自筆でなくてもよい)で書いて日付を入れて署名・押印をしておいた方がいいでしょう。その上で、秘密証書遺言の方式をとっておくのがベストといえるでしょう。
秘密証書遺言は必ず封印がしてありますが自筆証書遺言でも封印がしてあれば、必ず家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いのもとで開封しなければいけません。これに違反すると、5万円以下の過料の罰則があります。
しかし『封印』であるから、単に封がしてあって印がないような場合はここでいう封印にはあたりません。また、仮にうっかり開けてしまっても遺言の効力がなくなるわけではありません。
この遺言をするには、以下の6つの方式を経る必要があります。
(1) | 証人3人以上の立会い |
---|---|
(2) | そのうちの1人に遺言の趣旨を口授する |
(3) | 口授を受けた者がこれを筆記する |
(4) | これを遺言者と他の証人に読み聞かせる |
(5) | 各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名・押印する |
(6) | 言の日から20日以内に、証人の1人または利害関係人から家庭裁判所に請求して、その確認を得る(得なければ効力はありません) |
この場合、死が迫っている必要はありませんが伝染病で隔離されている者は自由がきかないので、自筆証書も書けない、公証人のところにも行けない、といったのでは困ってしまいます。
そこで、伝染病のため行政処分によって交通を絶たれた場所にいて、出たくても出れない者のために警察官および証人1人以上の立会いをもって遺言書をつくることができます。
船舶の中にいる場合の遺言には以下の2つがあります。
遭難していない船の中にいる場合 |
これは、基本的には伝染病で隔離されている者と同じ趣旨で認められている制度です。船長または事務員1人および証人2人以上の立会いで遺言書を作ります。 |
遭難した船の中にいて死亡の危急が迫っている場合 |
この場合証人2人以上の立会いで口頭で遺言をすることができます。証人は、その趣旨を筆記してこれに署名・押印します。そして、証人の1人または利害関係人が遅滞なく家庭裁判所に請求して確認を得ます。 |
これまでにも書いてきたとおり、遺言を書くには一定のルールがあります。
書くからにはそのルールに十分に注意を払って遺言を書かなければいけません。
確かに、自筆証書遺言の『印』は認印でも三文判でもかまわないので、あまり意味がないように思えます。
印などは、後からでも他人が押すことができますし、たとえその印が普段見慣れない印であったとしても、本人が使ったものではないという証明は困難ですから、印などで遺言の効力を左右するのは無意味なようにも思われます。
しかし、日本人の感覚では最後に押印することによってその人の意思表示が完了したと思うのが普通であるので、押印のない書類は、まだ未完成の文書であると思われても仕方がないといえば、そのとおりだとも思えます。
だからこそ、これから遺言を作ろうと思っている人は、ルールをキッチリと守って作成してください。
ここでは、万が一、ルール違反の遺言が出てきてしまったときのことを考えましょう。
とは言うものの、あまりにもルールを逸脱した遺言を有効にするのは無理な話ですが、例えば、自筆証書遺言に日付がなかった場合を考えてみます。
遺言書の中のどこを探しても日付がないというなら、これは無効になりますが、この遺言書が封筒に入っており、しっかり糊付けされていて、さらに厳重に封印がされていて、この封筒に日付が書かれていた場合はどうでしょうか?
この場合の裁判所の見解は、『この封筒も遺言書と一体のものとみることができ、そこに日付が書いてあったのだから、これは遺言書に日付が書いてあったものとして有効である』となっています。
このように、例外的ではあるけども、ルールをキッチリ守っていない遺言書も有効になることはあるのです。
しかし、何度も言いますが、これから遺言を書こうと思っている人はキッチリとルールを守って書きましょう。
遺言は2人以上の者が共同で同一の証書ですることはできません。
その理由にはいろいろありますが、大体以下の理由のためです。
(1) | 遺言の法律関係を複雑にしてしまう |
---|---|
(2) | 普通、遺言者は同時に死亡しないので効力発生時期の問題が発生する |
(3) | 遺言の取消しの自由がきかなくなる恐れがある |
ですから、生前にいかに仲のよい夫婦でも共同で遺言を書いた場合は無効になってしまいますので、別々に書いておきましょう。
テープには、自筆証書遺言で要求されている署名や押印がなく、むしろ変造される危険性が高いので無効である、と言ってしまうのは簡単ですが、ここはもうちょっとじっくりと考えてみましょう。
例えば、テープが厳重に封筒の中に封印により封じられていて、その封筒に署名・押印・日付などが自筆でされ、さらに封筒に『遺言状』と書かれている場合などです。
まだ、裁判所が、このようなケースをきちんと判断したことはないので、ハッキリと有効だ、無効だとは言えないのですが、上記の例のように自筆証書遺言自体には日付はないが、これを封入し封印された封筒に日付の記載がある場合には、その遺言は有効である、とした判例もあるのですから、今回のテープの場合だって有効になる場合があってもいいと思われます。
よって、テープレコーダーによる遺言を即、無効であると決めつける前に、一度その効力を主張してみてもいいと思います。
そもそも『自筆』とは、どういう意味なのでしょうか?
自筆というのは『自書』のことであり、つまり『自分で書く』ということです。
よって、自らワープロを打ったとしても自書とはいえません。
しかし秘密証書遺言の場合は署名以外は自筆である必要はないので、方式さえあっていれば、ワープロによるものも認められます。
特別方式の遺言の場合も、ワープロで作ってもかまいません。
公正証書遺言は、はじめから自筆ではなくタイプで打たれているので問題になりません。しかし自筆証書遺言の場合はワープロではダメです。
※相続法改正により、財産目録に限っては、手書き(自筆)で作成しなくてもよくなりました。(相続法改正。施行日:2019年1月13日)
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遺言を一度書いてしまうと、それがたとえ軽い気持ちで書いたものであっても、本人が死んでしまえば絶対の意思として固定されてしまいます。
しかし、人の気持ちはころころと変わるのが普通であって、一度書いた遺言にずっと拘束されてしまうのであれば、なかなか遺言を書く勇気も起きないでしょう。
法律上は『遺言を取消すには、遺言の方式による』と定められています。
つまり遺言は遺言で取消すのです。
しかし、実際に遺言をまた別の遺言で取消す、などと律儀なことをする人はそうそういません。そこで、法律では、遺言を取消すつもりであったことがハッキリする以上、これを取消しとして扱うという規定も定めています。以下の3つのケースの場合です。
前の遺言と後の遺言とが抵触するとき |
後日前の遺言と内容が矛盾する遺言を作れば、前の遺言は取消したものとされます。例えば、10月1日の遺言で『全財産を太郎にやる』と書き、10月3日の遺言では『全財産を花子にやる』と書けば、太郎の分は後の遺言で取消されてしまい、遺言が2つあるから遺産は太郎と花子が半分ずつわけよう、とはならないわけです。ですから、遺言の日付はとても重要なのです。 |
遺言と遺言後の行為が抵触する場合 |
わざわざ別の遺言を書かなくても、前の遺言の内容にあるものを売ったり、あげたりしてしまえば、遺言を取消したものとみなされます。 例えば、『○丁目の家は太郎にやる』という遺言を書いたにもかかわらず、その後にその○丁目の家を本人が売ってしまったとします。 すると、この売ってしまったという行為そのものが、遺言を取消したものとみなされるのです。 たたし、①②の両方の場合に言えることですが後の遺言や法律行為と抵触する範囲内でだけ、前の遺言が取消されたということになるのであって抵触しない部分があれば、その部分は取消されたことにはなりません。 例えば、『○丁目の土地と○丁目の家の2つを太郎にやる』と遺言した本人が、後で○丁目の土地を売って、その後に亡くなった場合、売られていない○丁目の家についての遺言は、なお有効なものとして残るのです。 |
遺言者が故意に遺言書を破棄したとき |
遺言を書いた本人が、その遺言を破り捨てればその遺言を取消したことになります。 破り捨てれば遺言自体がなくなってしまうのだから、わざわざこのような規定を定めなくてもいいではないか、ということも言えますが、破り捨てたということは物質的に遺言書がなくなっただけで、あのとき書いた遺言書はいったんは成立したのだから有効である、という考えも成り立つので、わざわざこういう規定を定めたのです。 また、破り捨てるだけが破棄ではなく文字を黒く塗りつぶすような行為も破棄になります。 しかし元の文字が読める程度の抹消であれば、それは変更・訂正の問題であって、その方式が備わっていない以上元の文字がなお効力をもつことになります。 |
ちょっとややこしい問題ですが、例えば、遺言書の内容と抵触する形で、遺言の目的物を売ったような場合に、その売買行為が後日になって取消されたような場合です。
このような場合、売買そのものが取消されたのであるから、前の遺言が復活して有効になるのではないか、思えなくもないのですが、前の遺言を取消すことになった後の遺言や行為が取消された場合でもいったん取消された遺言の効力は復活しないことになっています。
ただし、これにも例外があって、その売買行為などが詐欺や強迫によって取消された場合は、もともとその売買行為自体が本意ではなかったのであるから遺言の効力は復活するのです。
遺言を書いた本人は、いつでもその遺言を取消すことができるのですが、それでは困る、という者もいるでしょう。
せっかく遺言で、『自分に全財産をくれる』と書いてもらったのに、あとから遺言者の気まぐれでなかったことにされたのではたまったものではない。
この人の言い分ももっともである。
が、しかし、法律は『遺言者は、その遺言の取消権を放棄することはできない』と定めています。
だから、遺言の中で『この遺言は取消すことはできない』などと書いても、遺言者はあとからいつでもこの遺言を取消すことができるのです。
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